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仙台高等裁判所 昭和30年(ラ)50号 決定

抗告人 小坂太一(仮名)

相手方 小坂タミ(仮名)

主文

原審判を取り消す。

本件を福島家庭裁判所若松支部に差し戻す。

理由

本件抗告理由の要旨は原審判添附第三目録記載○○部落共有使用収益地一家入会権は被相続人小坂吾作の遺産ではない。右入会権の対象たる合計一町六反五畝歩の採草地はもともと○○部落民が古来より入会を認められた公有林野の一部であつたが、昭和五年右公有林野の整理区分決定により内八十町歩余が○○部落の入会地として配分された際整理区分により右吾作の使用収益範囲として同人に配分されたものに過ぎないものであり、しかも右○○部落に配分された八十町歩余のうち採草入会地は三十八町五反四畝歩であり、これにつき現在入会権を有する者は三十八名でこれ以上の増員を認めない慣習になつている。すなわち入会の権利を有する者が部落外に移住したときや、死亡した場合は右権利は消滅し、もし死亡の際共同相続人のある場合は本戸を継承したと認められる一名に対し改めて入会権が与えられるか、あるいはその一名がこれを自然取得する慣行になつていて、共同相続人全部に入会権を与えるような例は昔より全くないのである。以上の次第であつて○○部落の右採草入会地は○○○町有であり、その入会権は共有ではなく総有の性質を有するものである。抗告人は前記吾作死亡後従来の慣行により入会権者の資格を有する者と他の入会権者全部から認められ、新たに入会権を取得したものである。しかるに原審判が右吾作の遺産でない前記入会権をその遺産と認め同人の相続人たる抗告人等七名の共有持分と定めたのは○○部落における入会権の前記慣行に関する審理不尽によるものである。従つて原審判中右入会権を抗告人等七名の共有持分と定めた部分の取消を求めるため本抗告に及ぶというのである。

よつて案ずるに、本件遺産分割の目的となつた原審判添附第三目録記載の入会権は被相続人小坂吾作が○○部落民として固有していた収益権能であることはそれ自体明らかなところであるが、もともとかような意味での入会権の得喪は専らそれを保有する者の属する部落団体の慣習的規範によつて定まるものであつて、右規範によらない相続や譲渡によつて生ずることはありえないものである。それなら本件入会権をそのまま遺産分割の目的とした原審判はその点において失当というべきで、本件抗告はその理由がある。

ところで原審判は右入会権が遺産の一部としてその分割の目的であることを前提としたものであり、従つて右入会権の存在とその遺産としての分割方法も一応他の遺産の分割について事情として考慮されたものと見るべきである。しからばもし前の説明のとおり右入会権は前記小坂吾作の遺産より除外されるべきものであり、その帰趨はそれに関する○○部落の慣習的規範の解明を待つてはじめて確定すべきものであるとするなら、原審判が右入会権をも遺産分割の対象としたことは結局遺産分割全体としての不当を招来した恐れ十分というべきであり、従つて原審判は全体として不当であり、取消を免れない。

よつて家事審判法第八条、家事審判規則第十九条第一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石井義彦 裁判官 上野正秋 裁判官 兼築義春)

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